INTERIOR trip-8
こんにちは。福住です。

さて、今回も引き続き大阪編です。
美しい建物だな~と、いつか行けたらいいなと思っていた「藤田美術館」
藤田美術館は、明治の豪商・藤田伝三郎父子の東洋古美術品約2000件を収蔵している美術館でそのうち9件が国宝、53件が重要文化財という民間所有ではトップクラスの美術館です。

1911年に建てられた最初期の鉄筋コンクリート建築で、施設の老朽化に伴い建て替えとなり2020年8月に竣工、2022年4月に開館しました。ガラス張りで、大きな庇と室内の天井が一体になっていてその迫力と美しさに感動しました。デザインが近代的で美しいだけではなく、文化財をしっかり守り、維持管理性、省エネルギー性等に配慮した計画で建てられた美術館です。


Photo: 藤田美術館のインスタグラムより

建物内に入るとまず「土間広場」と呼ばれる空間が広がり、その一角に「あみじま茶屋」という和風カフェがあります。美術品を鑑賞し、美しい庭園を眺めながらこちらの土間広場に戻ってくる順路になっています。こちらの茶屋でお茶と櫛団子でちょっと一息、心穏やかに過ごすことができます。かわいらしい、このサイズ感がいいですね。

土間広場は南東向きに開けていて、開放感がある分外からの影響を大きく受けます。そのため大庇で直射日光を調整し必要なだけ光が入るよう設計され、同時に空調負荷の低減にもつながっているそうです。

こんな断面図をみつけました。
第21回環境・設備デザイン賞Environmental and Equipment Design Award 2022の記事よりお借りしました。(資料と写真2枚)

大庇で出が深く土間広場の奥の方まで光が届きにくくなってしまうところを、ハイサイドライト(上の方についた窓)から入ってくる日光をダクト内で反射させ、奥まった室内まで自然光を導き入れる計画になっているそうです。窓から直接入る自然光や土間に反射して入る光、空気の流れなどを細かく分析、シミュレーションされ明るさと心地よさが保たれた空間が実現しています。ダクト内を反射し入ってきた自然光はこのような感じに漆喰の壁を照らします。自然光の間接照明ですね。


Photo: 藤田美術館のインスタグラムより

黒い扉の奥に美術品が保管されるお部屋、美術館です。「入口」という案内やポスター、掲示物は一切ありません。「お静かに」注などの意喚起も美術品の説明文もなく、それは「見る」ことに集中してもらうための計画だそうです。「ここから美術館です、お静かに」を、それぞれに体感的に示すために考えられたのが「なにかをくぐる」という行為だったそうです。この美術館を手掛けた建築家さんの対談記事を読ませていただいたのですが、この「くぐる」という発想に至ったきっかけが「ストックホルム市立図書館」だったとありました。北欧建築の巨匠グンナール・アスプルンドが設計した世界的にも有名な建物です。

ストックホルム市立図書館Facebookより

以下対談記事より【階段を上がると壁に沿ってぐるっと書架が並んでいる円形のホールのまさに真ん中にぼん、と出るんです。そこに立った瞬間に、自分の足音や息遣い、咳の音などが反響して、自分の耳に集まって返って来るんです。それで自然に「これはちょっと静かにしないといけないな」と思わされます。けれどもよく考えると、デスクに座って読書したり勉強したりしている人たちは中心点にいないので、以外に音は届いていないんですね。空間のエコーと人の振る舞い、こうあって欲しいという人あり方までが考え込まれていて本当にすごいと思いました。】とありました。
以前の美術館で使用していた蔵の扉をくぐって展示室に入る。という行為に、賑やかなエントランスから気持ちを切り替えてもらうという意図があったと後から知り、体感しその感覚のある人にしかいつくれないもの、価値だなと。設計や空間デザイン、思想の深さに感動しました。
展示室を出てすぐのギャラリーには以前あった蔵の鎧戸が再利用され、その窓から四季折々の自然を眺めることができます。重厚な鎧戸と庭園のやわらかな景色のコントラストが絵画を眺めているような感覚になります。


Photo: 藤田美術館のインスタグラムより

ギャラリーを出ると土間広場に戻る道と庭に繋がる小道に分かれていて、小道は隣の公園に繋がっています。美しい建物と美術品、庭園。1日いてもいいなと思えるほど心地よい場所でした。

今はSNSなどで実際にその場に行かなくてもモノのデザインや美しさを見ることができます。世界中の美しい景色やモノ、写真映えを意識したものなどさまざまですが、どれもこの時代の豊かさのひとつだと思います。うまく言えませんが、そこで得た情報と実際に目の前で感じたこととの違いというか、その差のようなものに敏感でいたいなと思いました。

今回も最後までお読みいただきありがとうございます。